明日が、うるさい。
 このまま耳をふさいでいつまでも。









月を見ていた









 抱きしめているのに、抱きしめられているような妙な浮遊感。
 名前を呼ぶこともためらわれるような緊張感。
 こんな風だったか、誰かを身に添わすのは。

「リン。」

 乾いた喉を無理やり抉じ開けて名を呼ぶ。
 動かない。
 背中をさすってみても、ただ肩口に顔を押し付けるだけ。
 どうしたなんて陳腐すぎて問えない質問で。




 抱えたものを吐き出すような呼吸をただ肩口に感じる。
 何がそんなに辛いのか。
 何がそんなに悲しませるのか。




「リン、泣くな。もう。」
「泣いてない。何言ってんのアキラ。」





 回した腕に力を込めると、リンはぎゅっと体を強張らせた。
 肩が湿気を帯びる。泣いているじゃないか。



 「泣いてないって、ば。」




 求めていた明日でないなら明日なんていらなくて。
 壊したい過去なら壊れるまで奥にぎゅっと押し込めて。






 呼べばいい。
 たったそれだけで楽になれるのなら呼べばいいんだ。
 羨望と憎悪と重く渦巻く想いを堪えることはないはずなんだ。











「に…さ…。」
「リン。」
「アキラ…ごめ…。」





「聞こえない。」







「俺には、何も聞こえないよ、リン。」










 悲しませるならば。
 いっそ耳をふさいで。








「かず、い…。」










 いつまでも月が沈まずに、お前を照らせばいい。
 明日を飲み込んで、ずっと、ただ、光ればいい。









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((めかくしをする。例えそれがきみのためにならなくても))