きみにぜんぶをあげたいとおもった。
ああ、夜の闇にはなんてきみの髪が映えるんだろう。
決して綺麗とは言えないこの町で、透き通るように存在する。
血なまぐさい風。
地を這う影。
廃れた建物。
きみがまとえばその全てが美しく。
「またケイスケはそうやってー。」
呆れ顔で笑う。
アーモンドみたいに大きな目。
すぐに謝る俺をばかにしてるような、そんなかんじ。
猫みたいにあたたかい場所を探すのが得意なんだと思っていた。
そうじゃないと気がついたのは、あの黒い影を見たそのとき。
綺麗な目をしていると思っていた。
そうじゃないと気がついたのは、詰め込まれた写真を見たそのとき。
小さな肩に。
細い腕に。
小さな手に。
思わず見とれた、そのグリーンの瞳に。
何か、楽観的な俺には解らない、荷物が。
まだ生乾きの、傷口が。
あいしてるではしっくり来ない。
すきだけでは軽すぎる。
守りたいんだ。
そう言ったらきみはまたきっと笑うね。
苦笑いと呆れ顔の中間で。
街に声が透き通るように。
白い頬に赤がさして、まるで照れているように見える。
赤のチェックが顔に映っているのかなと思い直す。
街灯のせいかなとか、色々と自分だけの逃げ道を思い浮かべては打ち消した。
頬を伝うのは、俺を映す透明な流れ。
見ないふりができるくらい大人であればよかった。
だってきみは慰めや優しさなんてこっちに望んじゃいないから。
俺の持つ体やこころやましてやひとつしかない命だって望まれてはいないから。
言われれば、いや、言われなくても、投げ出す準備はできているのに。
守りたいと思った。
きみにすべてをあげたいと思った。
けれど守ることと、すべてをあげることは同義ではなかった。
見ないふりで背中を向けた。
それでもきみの姿はいつまでも眼前にあるようで。
意外に大人になれたんだなと思うとなんだか莫迦みたいで笑えた。
ねぐらに戻る道すがら。
すれ違った黒い影。
手にはオムライスのソリドが見えた。
昔と同じ。
すきなものを分けたがるきみだった。
ふたりでいれば幸せは2倍というのは綺麗事だけれど、幸せになれる人数は増える。
そんな考えを無意識にでも持っているからきみは行くんだろう。
静かに、そして美しく頬を濡らす流れを拭うために。
全てを聞いても、じっと受け止め肩を貸すために。
自分の何を押し付けるのでもなくただ、そこに、ぬくもりを。
きみにぜんぶを。
きみの望むものを、ぜんぶ。
守るのならば、望むもの、だけをきみに。
自分じゃなくてもいい。
とにかく、きみの目に映るものがあたたかいものであれば。
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((おれではないだれかと繋がれている手だとしても))((初ケイリン。ケイ→リン→←アキみたいな構図です。))