言葉にあらわすだけの力がないから。
だからここできみを待つよ。
毎日をなんとか遣り過ごしながら。
ここできみを待つよ。
今日も二人分の夕食が、テーブルに並ぶ。
毎日変わらず、副菜2つとメインがひとつ。
テーブルに座るのは、自分だけ。
差し向かいで湯気を立てる夕食にももう慣れた。
淋しくないかと聞かれれば、もちろん淋しい。
昔はただ涙が出てきて仕方がなかったけれど、今では立ち上る湯気にむせたんだと自分に理解させることもできるようになったんだ。
だから平気なんだ。
いつかはこんなことも起こるだろうと考えていた。
にせものの足で、にせものの笑顔をしてきみは出て行った。
いつもの散歩に出かけるように、きみは出て行った。
雨が降っていたから足の痛みを心配したけれど、平気だとそれだけ。
解っていたのに。
その笑顔は俺を安心させて閉じ込めるためだけのものだと。
それでも俺は騙された。望んで、きみの思い通りになった。
カレンダーの無かった部屋に、それを持ち込んだのは俺だった。
時間という概念を嫌うきみに歯向かったのはそれが最初で最後。
時計はいらない。
でもふたり過ごす日々を、目の当たりにして過ごしたかったから。
きみが過ごしてきた今までの時間を塗り替えているのだという実感が欲しかったから。
エゴをかためて伸ばしたような、カレンダー。
もう何枚もめくって捨てた。
きみのいない時間でも、確実に毎日は過ぎて、それでも俺は毎日食事を作って生き延びるのだ。
あの日きみが言ったあいしてるを胸に。
ひたすら待つのだ。
あの日踏み出した一歩は、きみが思い出の世界を離脱するための一歩。
そうに違いないと信じながら。
きみのすきなものばかりを毎日こしらえて、待つよ。
帰ったら星を数えよう。
きみが集めた思い出を浮かべて。
流れるそれにこれからのふたりを祈ろう。
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((長い時間もきみを思ってすごせば一瞬なんだ。涙は出ないよ。))